~たった一つを変えるだけ―クラスも教師も自立する「質問づくり」―~ Readerかんvol.2

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たった一つを変えるだけ

☆どんな本

学校で行われている授業ではしばしばこのような光景を見かける。
「○○はなんでしょう?」「△△が起きたのはなぜでしょう?」
教師から質問が与えられて、その質問に対して考え、答えを導き出すというのが従来の学校教育で行われている授業である。しかし本著では、このような従来の授業を「たった一つ」変えるだけ授業の方法を示している。
従来の授業形態を「なぜ」変えるべきなのか。「どのように」変えるべきなのか。具体的に「どのような手順で」変えていけばいいのか。このような背景となる理論と誰でも実践可能な方法論も示されている貴重な一冊である。

☆どんな著者

ダン・ロスティン
共著のルースとともにThe Right Question Institute(正問研究所)の共同代表。長年、対象としていた人々から学び、そのノウハウをコミュニティ・オーガナイザーや都市計画家として、より効果的な市民参加や民主的な社会システムの構築に応用してきた。全米各地だけでなく、イスラエルでも仕事をしたことがある。ハーバード大学およびハーバード大学教育大学院(博士号取得)卒

ルース・サンタナ
生活保護を受けて家族を育て、工場労働者として働いていた。そして学校に戻って卒業し、大学・大学院で学んだ後、自分自身の体験をモデルとして多くの人と共有する活動を展開している。対象がどんな人でも、見事なくらいにニーズに合わせて対応できるのが特技。今は母校で教えてもいる。1990年ごろに当時ルースが住んでいたマサチューセッツ州のローレンス氏で市の都市計画担当職員であったダンと住民代表としてであった。

☆学び

①なんでこれを教えてくれなかったの?

基本的には、従来していることとほとんど同じなのですが、ただいひとつだけ変えることが要求されます。それは、これまでのように教師が発した質問に生徒たちが答えるのではなく、生徒たちが自らの質問を創り出せるように導くことです

例えば授業中に「これから○○について質問をつくってください」と教師から言われたら土嚢に感じるだろうか。おそらく多くの人が大きな違和感があるはずだ。従来の学校の授業では質問は教師から与えられるものだからである。
このような「質問はあたえられるもの」という前提の授業の弊害は何か。従来の学校で行われている授業について、本著では次のような循環が発生していると批判している。

「ワクワクしない授業 自分が主役になれない授業 教科書をカバーする授業」⇒テストのための授業 教師の発問/正解に焦点を当てた授業」⇒「暗記という苦役」⇒「テストが終わったら覚えた内容を忘れる」⇒(繰り返し)

このような経験をしていた人も多いのではないだろうか。このような学習のサイクルにおいて、生徒は常に受動的にならざるを得ない。自分が主役になれず、与えられた質問について答えを考え、暗記をし、その内容はテスト後には忘れてしまう。このような一連の流れをうけてさらに学習への意欲は失われ、余計にわくわくしなくなる。このような循環を断ち切る一つの方法として本著では「質問づくり」を提案している。

質問づくりでは次のような循環が発生しやすい。

「ワクワクする授業 自分が主役になる授業 教科書を結果的にカバーする授業」⇒「テストを過剰に意識しない授業 自分たちの質問に焦点を当てた授業」⇒「楽しい探究=自分の質問を解き明かす学び」⇒「テストが終わっても残る、身につく」⇒(繰り返し)

自分で考え、自分で選んだ質問を解き明かすからこそ、生徒が主役になる。そして、質問を解き明かすことに力を注ぐことでテストを意識しなくなる。質問について探求する楽しさを経験しながら、結果的に「知識」だけではなく、「スキル」が身についている。意味ある学習をしたという経験が学習に対する意欲を生み出す。

質問を「与える」から「つくる」に変えるだけでこのような変化が生まれる。これは私自身も日本の学校現場で実践し、実感したことでもある。

この章の最後に、著者が質問づくりを実施した際に参加者の方から上がった声を紹介したい。

生徒たちは、質問づくりを身につけたことで学び方が大きく変わりました。彼らは、『なぜ、これを高校の時に学ばなかったのか?』と不思議がっています

②質問づくりで得られるもの

従来の学校で行われている授業では「基礎的・基本的な知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」と「学習意欲」の育成を目的としている。そのための方法として多くの場合、一斉講義型の授業が実施されている。しかし学校の実情は前章で述べたようなサイクルに陥っている場合が多い。(もちろん、考える力や学習意欲を育てている実践家もたくさんいる)
では質問づくりではどのような力が手に入るのか。本著では3つの高次な思考力が手に入ると提案している。

・発散思考―多様なアイディアを考え出し、幅広く創造的に考えられる能力
・収束思考―答えや結論に向けて、情報やアイディアを分析したり、統合したりする能力
・メタ認知思考―自分が考えたことや学んだことについて振り返る能力

従来の学習と比較するとこのような思考力を獲得することの価値が見えてくる。まずこの3つの思考力は「学校」という枠組みにとらわれず、社会に出てからも使える力である。例えばあなたがプロジェクトのリーダーに任命されたとき、プロジェクトを展開するためのアイディアを創造することが求められる。また、プロジェクトを展開する上でのリスクや問題点などにも焦点を当てながら幅広く創造することが求められる。

質問づくりはこのような社会に進出してから必要とされる力を育成するために有効な方法である。そしてこの方法の魅力は「たった一つを変えるだけ」で授業が変わるということである。学習者の中では質問を「与えられるもの」から「つくるもの」へと変わるだけである。それ以外の部分に関しては大きく変えることはないほんちょう。本著が多くの教育者から指示されている由縁は「たった一つを変えるだけ」だからなのかもしれない。

③質問づくりを実践して…

質問づくりの考え方や効果、そしてシンプルな進め方に共感を受け、現在担当している中学1年生5クラスで質問づくりを実施した。実施することで本著の価値を大きく感じることになった。

鎌倉幕府の成立から戦国時代にかけての計12回の授業を貫く問いを設定するために、質問づくりを実施した。この時代は武士が台頭する時代である。まずは生徒が質問をつくるために必要な質問の焦点を設定した。今回の質問の焦点は「武士の世が始まった」である。

質問づくりに移る前に、質問づくりの4つのルールを確認する。(1)できるだけたくさんの質問をする(2)質問について話し合ったり、評価したり、答えたりしない(3)質問を発言のとおりに書き出す(4)意見や主張は疑問文に直すという4つのルールを共有してから、実施した。このルールは質問づくりをすすめる上での問題を未然防止してくれる役割があることを実践する中で感じた。

そして、いよいよ質問づくりが始まる。最初の5分はなかなか進まない班も多い。しかし10分が過ぎるころには質問づくりに没頭している生徒も多い。自然と視線がお題の方に集まっていく様子が見られた。

15分間の活動の中で40個以上もの質問をつくる班もあった。また、「武士の世が始まった」という質問の焦点にもかかわらず、「外国との関係はどうだったのか」などという視野の広い質問を書いている生徒も多かった。実践してみることで、このような学習形態が生徒の学習意欲を育て、成長を促進するのだと感じた。

☆こんな人におすすめ

・学校教育に携わっている人
・研修やセミナーなどの講師をしている人
・ファシリテーターに興味がある人
・ワークショップなどの企画や運営に携わっている人
・プロジェクトの企画や運営に携わっている人
などなど

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